NY流 音楽キャリアの始め方〜スティングのギタリスト直伝

初秋のセントラル・パーク”ザ・レイク”に響いたサックスの、哀愁の調べ。……それはスティングの”イングリッシュ・マン・イン・ニューヨーク”でした。

胸を突かれて「誰が?」と目を凝らすと、吹いていたのは20代の若者。こちらではポリスもスティング(元ポリスのリーダー)も、依然幅広く人気です。

そんなスティングのツアーバンド・ギタリストを1987年から数年間務めたジェフリー・リー・キャンベル。昨夜、アッパー・ウェストサイドのブック・カフェで開催された彼の出版記念トーク・イベントに参加してきました。

画像2

フレンドリーな話術で、あっという間の楽しいひと時。音楽以外のキャリア志望にも参考になりそうなので、ポイント数点をシェアさせていただきますね。

チャレンジの期限を区切る

名門マイアミ大学で音楽を専攻したジェフリー。在学中にもジャズ系ギグ定期出演を保証されながら、中途で故郷ノースキャロライナ州の実家に戻りました。

彼がやりたかった音楽は、ジャズではなかったのです。チャレンジの期限を「一年」と決め、憧れのニューヨークに出て新生活をスタート。ダメだったら故郷に帰るつもりでした。

ブロードウェイ・シアターのキャンディー売りから始まり、自由の女神など、どこででもウェディング・バンドのギタリストをやったそう。

今は、デスクトップだけでいつでも音楽活動ができる時代。便利な反面、彼のような思い切りと短期集中には欠ける気がします。

レジュメ(職務経歴書)の一行目になんと書くかを決めておく

ジェフリーが書きたかったのは、「スティングのバンドでマジソン・スクエアガーデンに出演」でした。ひたすらそこを目指すうちに、スティング主催のオーディションにエントリーするチャンスを得ました。

あらゆるスティングの曲を入念に準備した甲斐あって、難関をかいくぐり合格。数を打つよりも、切望する対象に的を絞る方が成功率が高い好例ではないでしょうか。

私の日本での演奏キャリアについても、オーディションに至った経緯は同様だったので頷けます。レジュメの「一行目」をクリアに設定し、それに近い活動をする中で情報を求めるのが良さそう。

画像3

人間関係を制する

トーク後の参加者からの質問に、「他の応募者から抜きん出て合格できた秘訣は?」というのがありました。答えは「Manageable」。

スティングの第1期バンドは、名だたるスターのバックを務める凄腕揃いでした。「ちょっとなら時間あるから、やってあげてもいいよ」みたいなオレ様ばかり……。ゆえに、メンバー間の諍いが酷かったそうです。

それで懲りたスティングは、オーディションで候補者に話しかけながら「仲裁・中和(manage)ができるタマか」を慎重に見ていたとか(笑)。

私がシアトルでの映画音楽作曲コースで習ったことも同じでした。実力主義のアメリカかと思いきや、意外にも成功するのは「Pleasant person to work with(一緒に気持ちよく働ける人)」だそう(トップ40ヒットを持つシンガーソングライター スー・エニス講師)

ネット上の仕事も、例外ではありません。私もオンライン納品が主だけど、一癖ある担当者とうまくやっていくメール術は必要と感じます。

愛は勝つ

参加者からの質問……「今でもスティングと交流はあるか、本を書いたことを彼は知っているか」――答えはYes。

25年経った今でも、楽屋を訪ねると固くハグをし、バンドのみんなに紹介してくれるそう。いつでも(メンバー・チェンジがあるので)チームは若いまま。ジェフリーは「スティングは吸血鬼」と噛むジェスチャーで、笑いをとっていました。

このエッセイは、タイトル Do Stand So Close (ポリスのヒット曲 Don't Stand So Close To Me のもじり)からもわかるように、「スティングへのラブレター」だそう。

その想いこそが、彼を成功させた原動力。レジュメ一行目の効果だけで、今に到るまで著名アーティストのツアー・サポートやブロードウェイ・ミュージカル・ピット演奏などの好機に恵まれ続けているのではと感じました。

画像4

トーク後に、ジェフリーと。本にサインをいただきました!

まとめ〜神はこういう人を選ぶ

昨夜のイベントでは、日本で来日アーティストのコンサート・スタッフをしていた時の感覚を、改めて思い出しました。

全米トップテン・ヒットを持つアーティストたちのアテンドを始めた頃に感嘆したのは、彼らの親和力の高さ。「この人たちは人たらしで、スタッフを夢中にさせるのがうまいから、大ヒットに繋がったんだろう」と、バカな分析をしていました。

ところが次第に、まるで見当違いだったことがわかってきました。彼らの多くは、感情が不安定な、計算なんかできない人間。人当たりが良く見えたのは、「相手に対して、溢れるほどの愛があるから」。

相手が困っていることはないか、何か少しでも自分にできることはないか……常にそう考え、行動している人たちなのです。

ジェフリーにしても、イベントの語り出しからそうでした。「この本はどこにでも、誰にでもある物語。スティングとかツアーとか書いたのは、ただ面白くするため」

成功自慢になって、聴き手に虚しさや劣等感を感じさせることが決してないように……という、懸命な思いが滲む口調でした。

神様は、こういう人を選ぶんだな――それが、私の一番の感想です。

なお、最後に余談ですが、アメリカ旅行の際のオススメ。このような当地ブック・ストアでの無料イベントをググって、好みのものに参加してみてはいかが? 予約いらずで、サインをもらう際にクリエイターご本人と直接話ができます。パワー・チャージにも想い出づくりにも、ぜひ!

 

◇あとがき〜お知らせ

このイベントには、音楽好きの親友アンナと行くはずでした。私の誘いに「行こう!」と即答したのに、なんと「メトロが不通で、ポリスがいっぱい出てる」と電話をかけてきて……。(NYではよくある)

私「何か事件かな? テロとか?」

A「さあ……。ポリスは何も言ってなかったけど……」

慌ててググってみたら、前日に私の乗る路線で”車内アナウンスがハイジャックされ、「ファッ○な銃を持ってるぞ」と男の声が全車両に”というニュースが……!

捜索の結果、不審な形跡はなかったとはいえ……こわごわ出かけました(笑)

こわごわといえば、アメリカ・デビューもこわごわでした〜。おかげさまで、アルバム発売2ヶ月足らずで Apple Musicでは36万回の再生……ありがたや〜。

画像1

公式プレイリストにフィーチャーされた"Please Stay"。切ないラブソング、よろしければ聴いてみてくださいね。他にも、瞑想・リラックスにピッタリのピアノ曲がいっぱいです!